
前回のコラムでは、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)は年齢とともに少しずつ衰えるものの、日常的に使い続けることで鍛えることができ、認知症予防に役立つことをお伝えしました。たとえば、日々の散歩に「五感への意識」を加えるだけで、脳に新しい刺激を届けることができます。
今回はさらに一歩踏み込み、五感がそれぞれ脳とどのようにつながり、どんな刺激が認知機能に影響を与えるのかをご紹介しながら、グランドマストでの取り組みも交えて、具体的な方法をご紹介します。
目次
「感じること」は脳のトレーニング
感覚は脳で処理されて初めて「認識」となり、感情や体験として記憶されます。つまり、五感を使うことは『脳を直接刺激する行為』と言えます。各感覚が脳とどう関わり、認知症予防にどう役立つのか、また、日常でできる五感トレーニングの例をグランドマストで過去に行われたイベントやサークル活動事例を交えてご紹介します。
(※:グランドマストでのイベントや活動は物件により異なります)
視覚(みる)
■ 関係する脳部位
後頭葉(視覚野)、海馬(記憶形成に関与)
■ 刺激の仕組み
色、形、動き、奥行きなどを瞬時に処理し、空間認識や記憶に関与します
■ 認知症予防との関係
視覚情報を意識的に取り入れることで、注意力や記憶の整理力が保たれやすくなります

■ トレーニング・活動の例
• 映画館や美術館、博物館を訪れて、作品をじっくり鑑賞する
• 写真撮影やスケッチに挑戦し、構図や色のバランスに注目する
• 新聞や小説、雑誌などで活字を楽しむ
■ グランドマストでの事例
多彩な植栽
敷地内には多様な樹種や花々が植えられ、季節ごと色彩や自然の美しさを感じていただけます。
季節に合わせたエントランス装飾
入居者さまの作品(お花や書道、絵画)や季節に合わせた飾り付けを行っています。装飾に目を向けることで、季節の移ろいを感じていただけます。

聴覚(きく)
■ 関係する脳部位
側頭葉(聴覚野)、ウェルニッケ野(言語理解)
■ 刺激の仕組み
音の高低、リズム、意味を即座に分析し、脳全体を活性化させます
■ 認知症予防との関係
音楽や音声の刺激は感情や記憶に深く関わり、認知症予防や発症後のケアにも効果があるとされています

■ トレーニング・活動の例
• 好きな音楽や昔よく聞いていた曲などを集中して聴く
• オーディオブックや朗読、ラジオに耳を傾ける
• 自然の音(風、鳥の声など)に意識を向ける
■ グランドマストでの事例
音楽会・演奏会開催
クラシックからポップスまでさまざまな音楽会を開催。生歌や生演奏の響きは心を揺さぶり、記憶や感情を呼び覚まします。入居者さまによる有志の演奏会も行われ、さらに豊かな時間をお届けしています。
嗅覚(かぐ)
■ 関係する脳部位
大脳辺縁系(扁桃体、海馬)、前頭葉(嗅覚情報の処理)
■ 刺激の仕組み
香りやにおいは感情や記憶を司る大脳辺縁系(特に扁桃体と海馬)に直接届く唯一の感覚です
■ 認知症予防との関係
初期のアルツハイマー病では嗅覚の低下が見られることもあり、においへの感受性は早期発見のヒントにもなります

■ トレーニング・活動の例
• 入浴剤を日替わりで楽しむ
• 香りの異なるコーヒーや茶葉を試してみる
• 季節の香り(雨の匂い、金木犀の香りなど)を意識する
■ グランドマストでの事例
食堂での調理
専属調理人が手作りでお食事を提供しています。食堂から漂う香りに引き寄せられ、空腹がますます強まり、食事の時間が楽しみで待ちきれなくなります。
生け花教室
華道の先生がご入居されていることをきっかけに、生け花教室が開催されました。花を活ける過程で、その香りや色を同時に楽しむことができました。

味覚(あじわう)
■ 関係する脳部位
島皮質(味覚の主要な処理領域)、視床(感覚情報の中継)、脳幹(自律神経との関連)、前頭葉(味の認識と判断)
■ 刺激の仕組み
味だけでなく、香りや食感、温度、記憶も関与する総合的な感覚です
■ 認知症予防との関係
新しい味の体験は脳にとっての学び。食べることが意欲を生み、うつや無気力の予防にもつながります

■ トレーニング・活動の例
• 新しい食材や味付けにチャレンジする
• ゆっくりよく噛んで味の違いを楽しむ
• 家族や友人に料理を振る舞う
■ グランドマストでの事例
栄養士監修の多彩な食事メニュー
日替わりの献立では味や香りはもちろん、季節感や美しい盛り付け、食器へのこだわりまでお楽しみいただけます。
イベント食
お寿司の日や土用の丑の日、クリスマスやお正月の特別料理など、月々のイベント食をお楽しみいただけます。毎日の食事にも変化をつけて、飽きずに楽しんでいただけるよう工夫しています。
触覚(ふれる)
■ 関係する脳部位
頭頂葉(大脳皮質・感覚野)、小脳(運動調整)、運動野(触覚と運動の連携)
■ 刺激の仕組み
皮膚や筋肉からの情報を統合し、身体の感覚や動きと連携します
■ 認知症予防との関係
手作業や身体を使った活動は、脳の広範なネットワークを活性化します

■ トレーニング・活動の例
• 編み物や陶芸、書き物などの手仕事をする
• 異なる素材(木、布、金属など)や形に触れて感覚を楽しむ
• ストレッチや筋肉トレーニングなどで身体の動きを意識する
■ グランドマストでの事例
健康体操
週1回インストラクターによる「健康イス体操」を実施しています。足腰に不安がある方でも安心して身体を動かしながら、筋力やバランス感覚をやさしく刺激することができます。
楽器体験
楽器経験のある入居者さまが教室を開いてくださることもあります。楽器の音や振動は、手ごたえとして身体に伝わり、脳にも優しい刺激を届けてくれます。
(※ 居室での楽器の使用はご遠慮いただいております。)

小さな“気づき”が、大きな予防に
日常生活の中で五感をただ使うのではなく、「感じたことに気づき、それを楽しむ」。そんな小さな習慣が、脳を守る大きな力になります。
感じる力は、生きる力
「五感を鍛える」と聞くと特別なトレーニングを想像するかもしれませんが、実は日常生活の中で手軽に始められます。最も簡単な方法のひとつが「散歩」です。もちろん意識せずとも五感は自然に働いていますが、それを意識的に感じることで脳を活性化させるができます。いつもの散歩の中で五感を鍛えるトレーニングのポイントを紹介しますのでぜひお試しください。散歩をただの移動手段としてではなく、五感を意識的に楽しむ時間にすることでこんなにも新しい発見があるということを感じていただけるはずです。
これまでに挙げたトレーニングや活動例は、「ながら」では意味がありません。例えば映画を観たりラジオを聞いたりするなら、内容を他人に説明できるくらいが理想的ですし、毎日の食事も「何を食べたか、どんな味だったか」を後日に思い出し、そして「また食べたい」と思えることが大切です。
五感を「ただ使う」のではなく、“意識して育てる”ことで、脳もこころもいきいきとした状態が保たれます。大切なのは、それに「気づくこと」「あじわうこと」、そして「楽しむこと」。
ご自身のペースで気軽にできる取り組みを、ぜひ見つけてチャレンジしてみてください。
「今日も、何かを“感じた”」
その一言が、明日の元気につながります。
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