
一年の終わりが近づくと、街のあちこちに「年の瀬らしさ」が漂いはじめます。
大掃除、年越しそば、除夜の鐘、そしてお正月の支度。どれも慌ただしい中にも、どこか心を落ち着かせる響きをもっています。
日本の年末年始は単に「古い年と新しい年を入れ替える期間」ではなく、【心を整え、感謝を伝える時間】でもあります。その一つひとつの行事や風習には、時代を越えて受け継がれてきた意味が込められています。
ここでは、いくつかの行事をたどりながら静かに新しい年を迎えるためのヒントを探ってみましょう。
目次
- 年を締めくくる日々~清めと感謝のこころ~
・大掃除(煤払い)
・餅つき・鏡餅の準備
・年越しそば
・除夜の鐘 - 新しい歳を迎える喜び~祈りと願いをこめて~
・初日の出
・初詣
・獅子舞
・お年玉 - 年のはじめを整える~新年に息づく暮らしの知恵~
・初夢
・七草がゆ
・鏡開き - おわりに
年を締めくくる日々~清めと感謝のこころ~
一年を締めくくるこの時期、人々は昔から「心と暮らしを清める」ことを大切にしてきました。大掃除で家を整え、年越しそばをすすりながら一年を思い返し、除夜の鐘を聞いて静かに年を越す。そこには、新しい年を気持ちよく迎える準備という共通の想いが流れています。
●大掃除(煤払い)
年末の大掃除は、もともと「煤払い(すすはらい)」と呼ばれ、平安時代の宮中行事が起源とされています。
一年の埃や煤を落とし、新しい年に家の神様(年神様)を迎える準備をする・・・そんな意味が込められていました。現代では、単なる掃除として扱われがちですが、「過ぎた一年に感謝し、心と住まいを整える時間」として捉えてみるのも良いかもしれません。
●餅つき・鏡開きの準備
餅つきは、古くから「年の神様(年神様)を迎えるための準備」として、年の瀬の重要な行事でした。餅は昔からハレの日の特別な食べ物であり、つきたての餅でつくられる鏡餅は、年神様へのお供え物として神棚などに飾られます。これは、神様へ一年の収穫を感謝し、新しい年の豊穣と家族の健康を願う静かな祈りの形です。最近はご家庭で臼と杵を使う機会は減りましたが、餅つきの活気や皆で準備をする喜びは、年末ならではの温かい日本の風習といえるでしょう。
●年越しそば
そばを食べる習慣は江戸時代中期ごろに庶民の間で広まったといわれます。
細く長い形から「長寿」を願い、また切れやすい性質から「一年の災いや厄をきっぱりと断ち切る」という意味が込められたともいわれています。地方によっては「にしんそば」や「海老天そば」など特色がありますが、形式よりも、「一年の終わりに温かいものをいただく時間」として楽しむ心が大切です。
●除夜の鐘
大晦日の夜に響く除夜の鐘は、多くの寺院で108回撞かれます。
この「108」という数は、仏教でいう人間の煩悩(心の迷いや欲望)の数を象徴するとされますが、由来にはいくつかの説があります。煩悩の数を表すという説のほかに、1年間の月(12)、二十四節気(24)、七十二候(72)を足した数として、「1年間」を表すという説もよく知られています。
鐘の音を聞きながら、一年の出来事を静かに振り返り、感謝とともに心を整える──そんな時間にしてみるのも良いでしょう。
新しい年を迎える喜び~祈りと願いをこめて~
年が明けると、日本の各地で「祈り」と「祝い」の行事が始まります。初日の出を拝み、神社へお参りし、お節料理を囲む。それらはすべて、新しい年の無事と幸福を願う、静かな祈りのかたちです。
●初日の出
新年の朝、初めて昇る太陽を拝む「初日の出」は、太陽を神として崇めた古い信仰がもとになっています。日本では太陽を「天照大御神」として仰ぐ伝統があり、新しい年の光を浴びることに「生命の力を授かる」という意味を重ねる人もいます。
遠出をせずとも、窓越しに朝日を眺めるだけで、心が自然と新たになります。
●初詣
初詣は、年のはじめに神社やお寺に参拝して感謝と祈りを捧げる行事です。その起源は、年神様を迎えるための「年籠(としごもり)」という古い習わしにあるともいわれています。
大きな神社だけでなく、地域の氏神様に手を合わせるのも良いものです。願いごとをするよりも、「今年も無事に過ごせますように」と静かに心を整える時間にしてみるのもおすすめです。
●獅子舞
お正月には、地域の辻々で「獅子舞」を見かけることがあります。躍動感あふれる獅子舞は邪悪なものを追い払い、厄病退散や五穀豊穣を願う儀式として中国から伝わったとされます。
獅子に頭を噛んでもらうとその年に災いがなくなり、ご利益があるといわれています。新年を寿ぎ、活力を授けてくれる獅子舞は、新しい年を力強く迎えるための心躍る日本の風習の一つです。
●お節料理
お正月の食卓を彩るお節料理は、古くは節句の祝い膳がもとになったとされます。「節(せつ)」とは季節の節目を意味し、平安時代には宮中で供された行事食でもありました。
黒豆は「まめに働く」、数の子は「子孫繁栄」、昆布は「喜ぶ(よろこぶ)」など、食材にはそれぞれ願いが込められています。手作りでなくても、市販の一品を添えるだけでも、気持ちのこもった年のはじめの膳になります。
●お年玉
お年玉の起源は、年神様へのお供え(鏡餅など)を家族で分け合った「御歳魂(おとしだま)」にあるとされます。神様からの恵みを分けることで、家族の一年の健康と幸せを願ったものです。
現代のように金銭を贈る形式になっても、「新しい年を励ます贈り物」としての本質は変わりません。感謝や応援の気持ちを添えることで、贈る人の心が伝わる行事といえるでしょう。
年のはじめを整える~新年に息づく暮らしの知恵~
正月が過ぎると静かな日常が戻ってきます。その中にも「身体をいたわり、気持ちを整える」小さな行事が受け継がれています。食と夢、そして感謝のかたち・・・いずれも日本らしい優しいリズムが感じられます。
●初夢
新年最初の夜に見る夢を「初夢」と呼びますが、いつの夜かは地域によって異なります。一般的には1月2日の夜の夢が縁起物とされ、「一富士二鷹三茄子」が良い夢の象徴といわれます。富士は「無事」、鷹は「高み」、茄子は「成す」に通じるとする説もあります。
夢の内容にこだわらず、前向きな気持ちで一年を始めることが何よりの福になるでしょう。
●七草がゆ
1月7日に食べる七草粥は、平安時代の宮中行事「若菜摘み」に由来するとされます。春の七草をおかゆにして食べ、無病息災を願うものです。
お正月のごちそうで疲れた胃をやさしく整える意味もあり、理にかなった行事です。忙しい現代でも、少しの工夫で季節を感じる食文化として続けられます。
●鏡開き
正月に神様へ供えた鏡餅をいただく「鏡開き」は、年神様の力を分けてもらう行事です。刃物を使わずに木槌などで割るのは、「縁を切らないように」という願いから。
いただくことで感謝を形にする風習として今も残っています。お汁粉や雑煮にして味わうのも、自然で温かな日本の年明け風景です。
おわりに
年末年始の行事は、どれも「清める」「祈る」「整える」という三つの心が重なっています。すべてを行う必要はありませんが、自分の暮らしに合ったかたちで取り入れてみることで、季節の移ろいがより深く感じられます。
慌ただしい日々の中にも、感謝と希望を忘れずに。グランドマストのゆったりとした空間で、どうぞ皆さまにとって穏やかであたたかな年末年始となりますように。
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